会社設立の新サービス開始
各個店が立地する地域に即した品揃えや販売政策が必要になったからである。
例えば、海岸近くの店舗が2つあったとしよう。
近くに立地していても、この2つの店舗の品揃えは違うものにすべきかもしれない。
例えば、一つの店舗は消費者が海水浴へ向かう時に立ち寄る店で、もう一方は海からホテルへ帰る時に立ち寄る店だった場合を挙げることができる。
海に行く前に立ち寄る店では、日焼け止めのクリームをたくさん店頭に並べる必要があるだろうが、海から帰ってくる時に立ち寄る店舗ではその必要はないだろう。
顧客の要求にあった品揃えを実現し、経営成果を高めるには、このような店舗間の差を十分考慮して、日々のオペレーションを実行しなければならないのである。
しかし、先に述べたように、ある程度の店舗数を抱える流通企業の本部はすべての店舗に十分に目配りすることができない。
あるいは、各店舗も、自分の店の外にある市場に関する情報を見つけて活かすだけの時間的余裕がない。
そこで、本部で一人のバイヤーが全店舗の商品や在庫管理を行うのではなく、何人かでマーチャンダイジング活動を分担し、よりきめ細かい市場への対応を行おうという動きが出てきたのである。
ここでマーチャンダイジング(以下、MD)活動を商品の企画・生産・仕入・販売に関わる活動と簡単に定義しておこう。
しかし、店舗数がある程度の数を超えてくると、一人のバイヤーが商品・在庫の管理を一手に引き受けることが困難になってくる。
そこで、商品に関わる業務と在庫に関わる業務を別の担当者が行うという考え方が出てくることになる。
その在庫管理を専門に行う担当者がコントローラー(あるいはディストリピューター)である。
例えば、3章で紹介したように、Sではバイヤー、コントローラー、店長の三者で徹底した分業制がしかれている。
Sでは、バイヤー(46名)が商品の買い付けを行い、商品センターから各店舗に配送した商品はコントローラー(46名)と呼ばれる専門部隊が管理している。
コントローラーは各店ごとの販売データを参照して、売れそうな店に他の店から商品を移す。
あるいは、各店にある商品の値下げのタイミングを図る。
そして店舗では発注や在庫管理を行わない。
店舗は販売業務だけに専念するのである。
Sは、ディマンド・チェーン経営を実践している企業の中では珍しく本部主導のオペレーションを行っている企業である。
一般には、地域市場へのよりきめ細かな対応をしようとする場合、商品や在庫に関する決定は、より川下に近いところで行う傾向がある。
例えば、90年代初頭のジャスコでは、ある地域だけを担当する地域バイヤーをおいて、そのエリア内の店舗用の商品とその在庫量の決定を行うようにしていた。
また、Sでは仮説検証型の発注を採用して、より川下の店舗で発注商品とその量の決定を行う形をとっている。
そしてそこでは、スーパーバイザーがある一定の地域内にある店舗の発注を側面から支援している。
いずれにしてもここでのポイントは、以前は一人のバイヤーの属人的努力によって行われていた商品・在庫管理が複数の担当者によって実行されるようになったということである。
そのことで個人の能力的限界を克服し、各店舗が直面する市場へのよりきめ細かな対応が可能になったのである。
また、分業化に伴い、属人的に処理されていたマーチャンダイジング活動を透明化することが必要になる。
その結果、営業支援のノウハウや各個店のノウハウを広く組織的に活用することが可能になった。
その意味で、流通企業における組織革新の第一歩は、このような新たな分業の採用から始まる。
次に紹介するYの事例は、ここで取り上げた分業の仕組みを取り入れながら、新たな飛躍を成功させたものである。
流通企業における組織革新の重要性を示す格好の例としてはFを挙げることができる。
Yでは、小売りチェーンの基礎体力を表すといわれる既存店の売上が、98年度に対前年伸び率で26%を超えている。
これは、98年度から開始された改革の成果であしかし店舗数が300を超えてくると、本部の担当者だけでは、すべての店舗の状況を把握することが難しくなっていった。
具体的には出店を重ねるにしたがって、これまでの店舗フォーマットとは異なる形の店舗を出店する場合が増えてきた。
例えば、同社の標準フォーマットでは、平屋建ての店舗が一般的であるが、東京の原宿店では複数のフロアで営業している。
あるいは郊外に単独で立地するのではなく、商業ビルの中に間借りする店舗も出てきた。
このように多様な店舗形態が出てきたことも本部集中での管理を困難にしていたのである。
そのような状態にあったそれまでYでは、本社による徹底した一元管理を行っていた。
店舗の立地や規模、品揃えなどを標準化して、マニュアルを作成し、そのマニュアルをもとに店舗は運営にあたる。
そのことでチェーン・オペレーションのメリットを最大限に享受しようとしたのである。
そこでは、本社の担当者がチェーン全店の過去の販売実績や現在の売上、在庫状況を監視して、店舗ごとの品揃えや在庫数を決定する。
他方で、店舗の担当者は、本部の指示通りに商品を陳列し、販売業あたっていた。
つまり、当時、同社は従来のチェーン・オペレーションを教科書通りに実行そこでは、まず販売戦略の決定権を店頭に大幅に委譲することから始まった。
そして情報システムをはじめ、店頭を最大限支援する体制を築くことになる。
色やサイズで品切れする商品が少なくなかった。
また、店の方でも本部集中管理に慣れ、マニュアル通りにしか行動しない担当者が目立ってくるようになったという。
マニュアル経営の悪弊として、Y社長は次のような例を挙げる。
ある雨降りの閉店間際に子供連れのお客が「電話を貸してください」と店長に言ってきたという。
しかし、マニュアルにはお客に電話を貸さないようにとある・そこで、店長はその願いを断ったという。
その後、そのお客は本部に電話して次のような抗議をした。
「うちの子供が病気だったので電話を使わせてもらいたかったのに、どうしておたくは電話を使わせてくれないのか」と。
この一件で、Y氏は店長が自分の判断で行動することの必要性を痛感するようになったという。
これはほんの一例であるが、本部集中のマニュアル経営を推し進めることで、店で大量の品切れが発生するだけでなく、お客への十分な対応ができなくなっていることをY氏は痛切に感じたのである。
そこで「店頭の売れ行きや顧客ニーズを一番わかっている現場の担当者に権限を委譲する」という決定が下されることになる。
それは、現場の店長が日々工夫を行い、店舗で発生するロスをできるだけ少なくし、お客へのサービスを向上するように努力する仕組みへの転換である。
あるいは、各店舗がすべての判断を実行しながら商売し、その活動を支援するために本部がある、という考え方への転換である。
まず、Yが行ったのはそれまでのエリア・マネージャーと呼ばれていた人達をスーパーバイザーと呼ばれる機能へと変更することであった。
それまでは、エリア・マネージャーは組織階層上、店長の上にいて、ある地理的範囲内の店の店長に命令や指示を与える仕事を行っていた。
つまり、本部からの指示・命令を徹底させる役目である。
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